月ノ浦執務室

アクセスカウンタ

zoom RSS ● ゴールデンスランバー

<<   作成日時 : 2011/05/21 07:28   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1



 首相暗殺の濡れ衣を着せられた男の逃走劇。伊坂幸太郎・原作映画の傑作であり、中村義洋・監督映画の傑作でもある。「アヒルと鴨のコインロッカー」、「フィッシュストーリー」と続き、この組み合わせからさらなる名作映画が生まれた。


 始めの展開は、観る者を強烈に惑わすような謎がない、ただただ“はめられた”主人公が人を疑いながら警察から逃げるという話。原作小説では、まず事件をテレビで追いつつ主人公を疑う“一般人視点”から始まり、次に事件が風化した後にその陰謀説を疑う“識者視点”と続いて、やっと事件当日の“主人公視点”の話になる。小説には求められるべき“重厚さ”がある一方で、展開が再構成されたこの映画は、初めから主人公視点に近い話の流れで、スピーディーな展開であっというまに観る者を事件の渦中へと巻き込む、“臨場感”がある。

 求められるべき小説のボリュームと、映画の枠を比べると、圧倒的に映画の枠というものは小さく短い。それでもその“映画の枠”というものは映像作品として、起承転結を一気に観せるに専念された時間枠なんだろうと思う。長々と延長せず、その決められた時間枠に落とし込むことこそ、映画化、映像作品化の意義になるのだろう。
 一般的な小説を映画化すると、どうしてもカットされる部分は出てくる。この映画も、近未来→現代、の設定変更であったり、“監視社会”というテーマがばっさりカットされていたりと、ところどころ小説の展開や設定が簡略化されているのだが、ちゃんと小説の魅力を前提としての、とても良く計算された“端折り”に感じる。そしてそれは、展開の速さ、スピーディー、爽快感という、小説にはない新たな魅力を作り出せている。

 とはいえ、原作小説の重厚さも魅力。こちらもお勧めしたい。映画では語られなかった背景、様々な視点。多少、設定・展開は違うけれど、映画で得たイマジネーションを広げるような、より大きな世界が原作小説にはあります。


 映画の話に戻って。とにかく逃げる、その流れが変わってくるのは絶対的な危機的状況におちいった主人公を救う人物が現れるところから。超アウトローなこの人物を、監督・中村義洋が伊坂幸太郎・原作を扱うときに必ず使う?濱田岳が演じている。
 中村義洋は伊坂幸太郎の書く、人情物語的な面をちゃんと抽出している気がする。濱田岳の起用はその表れかもしれないが、今作でのその役柄は異質。素朴がウリの濱田岳にとっても、とても珍しい役柄だ。

 そこから確実に変わる流れ。主人公の反撃、ほどでもないけれど、絶望的な逃げ、ではなくなる。

 主人公が警察から逃げる為の武器となるのは知恵とか策略でなく、人との信頼。トリックが得意な伊坂幸太郎なら天才対天才の心理戦、みたいな話も書けなくもなさそうだが、彼がもっと重きを置くのは人情。そしてトリックをしかけるのは登場人物同士にではなく、観る側への心理トリックだ。大きなどんでん返しはないが、話の端々で、ちゃんと何度も驚かさせられ、飽きさせない。

 ゴールデンスランバーが伊坂幸太郎・原作映画の傑作と言える理由。伊坂幸太郎は伏線・トリックが大好きで、その巧妙さが一番の魅力と言えるのだが、映画化されればそれが何よりも前面に出されしてまう。でも小説にいつもあり、展開の大半を占めるのは、人と人との一対一の会話だったり、人間ひとりの自問自答する心の内面だったりする。伊坂幸太郎の描く人間らしさとか暖かさ。それは意外と、映像で魅せる「映画」というものに取り込むのは難しい要素なんだろう。
 ゴールデンスランバーは人情、信頼が前面に出ていて、トリックはスパイス程度、という話。そのバランスのほうが伊坂幸太郎の魅力がきっと出る。逃亡劇というアクション性もとても映画向きだ。

 中村義洋・監督作品としても秀逸。監督の趣味趣向が存分に発揮できていると思う。濱田岳だけでなく、同監督「チーム・バチスタの栄光」で主演の竹内結子も名演している。堺雅人と竹内結子は続編「ジェネラル・ルージュの凱旋」での共演でもあります。
 
 警察組織っていう絶対的な敵に、どうやって主人公が逃げ切るのか。そこに見える人と人との信頼、友情の素晴らしさ、美しさ。ビートルズの名曲、ゴールデンスランバーに重ねた想いと、どうしようもないこと、なんて諦めず、最後の最後まで抗っていくことに、生きる意味を感じた。

 なにより、切なさと暖かさの同居、みたいな何とも言えないラストが好きです。満たされてない?満たされてる?泣くとして、はたして、どっちなんでしょうか。


ゴールデンスランバー [DVD]
アミューズソフトエンタテインメント
2010-08-06

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ゴールデンスランバー [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


ゴールデンスランバー (新潮文庫)
新潮社
伊坂 幸太郎

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ゴールデンスランバー (新潮文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
劇場で観ましたが、どういう風に終わらせるのだろうと、ハラハラしたのを覚えています。
人間同士の信頼を武器に、巨大な国家的陰謀に立ち向かうというよりは逃げ切る、いいアイディアです。
桃源児
2011/05/21 07:34

コメントする help

ニックネーム
本 文
● ゴールデンスランバー 月ノ浦執務室/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる