● 姑獲鳥の夏



 「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。」 古本屋の本の虫、その屋号から「京極堂」と呼ばれる男にはもうひとつの“神主”という顔がある。そしてさらに奥の顔、それは… 京極夏彦・原作のサスペンス、小説・百鬼夜行シリーズの映画化第一弾。

 不思議な男、京極堂を演じるのは堤真一。映画しょっぱなから捲くし立てる京極堂独自の“モノ”の捉え方。口から出るのはオカルト話、しかし彼はすべてはありのままの現実だと言う。オカルト主義なのか?現実主義なのか?聞く者の常識を破壊する、この理屈っぽい堤真一・京極堂を「カッコいい!」と思えるか、「わけわからん!」と思うか。ここでこの映画への好みが分けられるだろう。理屈っぽい人、是非みるべし。


 舞台は戦後の昭和。空襲を受け一度は更地となった池袋界隈、雑司ヶ谷に残る古めかしい医院にまつわる奇怪な噂。二十箇月も妊娠を続ける医院の娘と、密室から失踪したその夫。調査に乗り出すのは探偵、記者、刑事等と知り合いに“いかにも”な曲者の多い、三文文士。


 この物語には「姑獲鳥」という怪異が渦巻く。姑獲鳥、コカクチョウ、ウブメ、産女。伝承の中で形を変えていくその妖怪。子を奪う妖怪であったり、預ける妖怪であったり、子の無念の声であったり。一個の妖怪とするには矛盾にも思えるその多様性は見事に、この物語の怪異を象徴するシンボルになっている。

 面白いと思うのは、事件のすべては現代医学で説明出来てしまうこと。事件の真相解明となる京極堂の「憑き物落とし」で、僕らがオカルトと呼ぶものが一気に現実になる。現実になるからこそ、この物語はオカルトよりも怪奇だ。

 すべてが現実である中、見える人・榎木津だけは“本物”。阿部寛が演じているが、その演技とキャラは阿部寛の真骨頂。榎木津は次作「魍魎の匣」で関口に替わってキーパーソンとなる。
 「魍魎の匣」はテーマがガラッと変わる印象があり、「姑獲鳥の夏」を好きになったからといって同じように好きになれる作品ではないと思うが、見れる人なら見てほしい。阿部寛を初めとする、継続して同キャラを演じている役者がさらにのびのびと演じているし、戦後の昭和の世界もよりリアルに広がっているのだ。

 とはいえ、2作のうちではこの「姑獲鳥の夏」の方が好きだ。映画「姑獲鳥の夏」は京極夏彦の世界を良く描けていると思うし、僕の趣味にも合う良質な怪奇映画だと思っている。京極夏彦の小説への導入としても、この映画は推したいと思う。

 京極夏彦の世界は真相の推理をしてこそ楽しめる、ような推理物、ではない。まったく解らないにしろ、うすうす解るにしろ、“怪異に翻弄される”ことが、この世界への正しい関わり方だと思う。推理系サスペンスが得意な人も、苦手な人も。事件、否、“怪異”に巻き込まれてみたい、という人にお勧めします。


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